この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
妹
第13章 下弦の月

そこまで敦子を憎む要因が、雅の中にあったとは考えにくかった。
(ここまでやるとは、まるで『雅は敦子自身に怨みがあった』みたいではないか!)
小さな疑念が大きな疑惑となり、その総てが雅へと繋がっていく。
(雅様だ――)
東海林は確信する。
雅が何らかの方法で、敦子を死に追いやった。
何の証拠もない。
何も立証できない。
しかし……雅がやったのだ。
『愛する兄とその息子を自分だけのものにする』ただ、ただそれだけの為に。
そして、月哉はいつの時点かで、気づいていたのか?
どれだけショックだったであろう……。
その胸中を察して、東海林の胸に殴られたような鈍く重い痛みが走る。
自分と血を分けた溺愛する妹が、最愛の妻を『お姉様』と慕いながらじわじわと貶めて、その命までも奪ってしまう。
そして月哉は警察にも言わず、ずっと一人でこの運命を背負って行こうと抱え込んだのだ。
全ての発端は自分のある、と……。
しかし、月哉とて万能な人間ではない。
こんな短期間に大切な人を一度は失いそうになり、二度目は失ってしまったのだ。
妹の全てを受け止めようと、頭では決めたのに、気持ちが追いつかない。
恐怖に向き合えないでいたのだ……。
敦子が階段から落ちた時、微動だにせず、ただ立ち尽くしていた月哉の姿を思い出す。
(何がいけなかったのだろう。どこでボタンを掛け違えたのだろう。二人は誰からも羨まれる、容姿、家柄、人格を持ち 合わせた、素晴らしい兄と妹だった筈なのに。
そんな兄妹を、どうしたら少しでも救えるだろう。彼らは私に、何を望むのだろう……。
私に出来ることなんて、限られている……けれど――)
「………………」
東海林は月哉の頬を、両手で挟んで持ち上げる。
冷たく血の気の引いた、整いすぎた顔。
その顔は、東海林が社長代理の付き添いで初めて本邸に訪れた時に出会った、十八歳のまだあどけなさと虚栄心をない交ぜにした、幼い月哉のそれだった。
「……月哉様、私では力になれませんか? 私は……」
東海林は大きく深呼吸する。
「私は……貴方と一緒に、貴方自信と、雅様と月都様を一生かけてお守りします」
(私は……貴方逹、兄妹を愛しているのだ――)

