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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第10章   私  


 まあ、私にとっては、なんの感慨も湧かない、数多ある芸能ネタのひとつにすぎないが……。

 そんなことに想いを馳せるくらいなら、今いる待合室という空間の方に目を向けた方が、よっぽどいいだろう。

 そう思いながら何の気なしに、前に座る若いカップルの会話に耳を傾けた。

「どうしたんですか? 人の顔を、じっと見たりして」

「いや……なんかね」

「やっぱり、この顔には、まだ慣れないみたいですね。はっきり言ってもいいのに!」

 彼女の方が、少しすねて言った。

「そんなことないよ。十分、かわいいって……」

 彼氏の方は、機嫌を取るのにやや慌てている感じである。

「少し地味くらいの方がいいって、そちらが言ったんですからね。だから、私……」

 それは、ちょと不思議な会話に思えた。

 少し考えてから察するに、彼女の方が美容整形を受けたということのようであるが。だとすれば「少し地味に」という件に、やや合点がいかないのである。

 若い女性ならば、派手すぎるほどの美を求めるのが普通であるはずであり、そうでなければ整形といった手段を取る理由がわからなかった。

 どちらにせよ、私から窺える彼女の横顔は、十分すぎるくらい整って思えたが……。

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