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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第5章   均  


 それは当然だろう。こんな美女と身体を密着させたことによる鼓動の高鳴りは、僕の左腕に絡めた腕越しに美里さんにも伝わっていたようだ。

「み、美里さん……」

「どうかしたの、そんなに困った顔して」

 そう言った美里さんは、どうやらいつもの余裕を取り戻しているよう。

「困るに決まってます。こんな風にくっつかれてたら……仕事ができませんから」

「真面目か」

「す、すみません……」

「アハハ! 流石に謝られると心が痛むなぁ。どう考えても、迷惑かけてるのはこっちなのにさ」

「もう、大丈夫ですか?」

「うん、平気。だからもう、キミを自由にしてあげよう」

 と、美里さんは両手で抱えていた僕の手を放そうとする素振りを見せ――しかし、もう一度それをしっかりと自分の方に引き寄せると、僕に顔を寄せて言った。

「その前に、キスしよ」

「え?」

「いや?」

 甘い声で囁き、首を僅かに傾げる。コンビニからの光が、美里さんの赤いグロスを俄かに照らした。

「……」

 僕はなにも言えず、ただ、その魅惑的な唇を見つめた。そのまま動かずに、しかし、見えない磁場に引き寄せられるような感覚を受ける。

 ジャリ――。

 僕が背後で、岬ちゃんの足音を聞いたのは、そのようなタイミングだった。

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