この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
せめて、今夜だけ…
第15章 人魚は海に還る
―――――――「はぁ、はぁ…」
就業中だというのに、俺は適当な嘘をついて部署を飛び出した。
一目散に向かったのは…、屋上。
この時間ならみんな業務に集中していて誰も来ない。
電話をかけるにここしかないのだ。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
一気に階段を駆け上がったせいで息が切れる。
屋上のドアを空けるとそこにはやはり誰もいない。
冷たい風が吹き荒れているだけ。
「はぁ、はぁ…」
震える手でスマホを取り出し魚月に電話をかける。
今頃翔太と一緒に式の日取りや段取りを決めているかも知れない。
招待客や引き出物の事を話してるかも知れない。
今電話をかけたらヤバいかも知れない。
そんな考え、これっぽっちも浮かばなかった。
ただ、とにかく魚月と話しがしたかった。
何でだよ、魚月…。
わかっていた事だけど、いきなり過ぎる…。
俺はまだ、魚月を諦める決心もついていないというのに。
プルルルルル、プルルルルル、プルルルルル…。
スマホを耳に当てると、呼び出し音が鼓膜に響く。
電話に出てくれるかどうかわからない。
待ってるこの時間すらもどかしい。
ただひたすらに願った。
話しがしたい…、電話に出てくれ…っ、と。

作品検索
しおりをはさむ
姉妹サイトリンク 開く


