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セイドレイ【完結】
第53章 落日
「お~お~。朝からイチャついて...よそでやってくれるぅ?」

リビングでちちくり合う夫婦に、それを冷やかす一人の男が2階から降りてきた。

「...ちっ。邪魔者が来やがった」

健一はその男の登場に舌打ちをする。

「...あっ!『慎二』さんっ...お、おはようございます!ご飯、テーブルの上に置いてあるんで、食べてくださいね!」

「...うん。ありがとう...」

「野菜もちゃんと食べなきゃダメですよ!子供達だって好き嫌いしてないんですから...!」

「わ、分かったよ...今日はちゃんと...食べるから」

「...あ!ヤバい!ほんとにもう家出なきゃ...!パパ、朝日と陽気は??」

「...あ、玄関にほったらかしだ...!」





健一と慎二。
紛れもなく、かつては亜美に性的暴行を働いた2人の男は、今同じ屋根の下で暮らしている。

事件発覚から6年。
世間から徐々に忘れ去られているこの事件の『その後』を知る者は、極々限られた一部の人間だけだった。

約2年前、ノンフィクション作家である月島楓は、4年に渡り続けて来た亜美への取材を打ち切った。
と同時に、ほぼ完成していた原稿をお蔵入りにしている。

それはあの日、獄中から届けられた一通の手紙によって、亜美の本当の気持ちを知ってしまったからだ。

楓は決してそれを責めなかった。

『それがあなたの望みなら』

と、亜美が考えていたことに理解を示し、今後はそっと見守ることを誓った。


亜美はその後、当時仮釈放の身となっていた健一と密会を重ね、ある時なんと、健一にプロポーズをする。

夫として、2人の息子の父親として、亜美が選んだのは健一だったのだ。

夫婦となった2人は、慎二の出所を待ち、この中古物件を購入。


『今度こそ私達、家族になりましょう』


亜美は健一と慎二に、はっきりとそう言った。
それはまるで、亜美が武田家に引き取られて最初に迎えたあのクリスマスの夜を彷彿とさせた。

しかし、その表情はあの頃とは何もかもが違っていた。

亜美はもう、何も迷っていなかった。
何も犠牲にしていなかった。

自分の意思で、そうすることを決めたのだ。

これが、世間が知ることの無い、この2年間に起きた『その後』の物語である。
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