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セイドレイ【完結】
第37章 零落
ソファから立ち上がり、ベッドまで移動する亜美の姿を、雅彦達3人が目で追う。

亜美の腹は膨らんでいた。
雅彦の見立てでは、約妊娠4ヶ月と言ったところだろうか。
元々豊満だったバストも、更に大きさを増しているように見える。

しかし、何より違っていたのは、亜美そのものの雰囲気だ。
オーラとでも言うべきか。

雅彦が葬祭場で初めて亜美を見かけた時。
それはまるで、人形のようだった。
両親を失った悲しみに打ちひしがれ、絶望にひれ伏すその姿は、精巧に造られた血の通っていない人形に見えた。
この手に触れたら壊れてしまいそうな、そんな脆さと儚さを纏った美しい少女に、雅彦は酷く欲情したのだ。

その後、武田家で暮らすようになってからは、日々の陵辱に耐えながらも、どこか健気で人間らしい表情を徐々に見せるようにもなっていった。
しかし、ふと目をやれば、やはり亜美は常にその表情に影を落としていた。
自分の運命に必死で抗いながらも、カラダを支配する快感に対して罪悪感を抱いてしまう、そんなもどかしくていじらしい姿が、数々の男達を虜にしていったのだ。

ところが、今目の前に居る亜美は、その麗しい造形はそのままに、全くの別人に見えるのだ。

憑き物が取れたとでも言えようか。
亜美の横顔からは、以前のような悲壮な影がどこにも見当たらない。

代わりにそこにあったもの、それは他でも無い、母性だ。

子を宿しているから、という理由だけでは説明がつかない程に、今の亜美からはとてつもない強烈な母性が淀みなく溢れ出ていた。

見た目は誰が見ても、あの亜美で間違いは無い。
しかし今目の前に居る少女は、もはや少女とは形容し難く、女としてのしなやかさを携え、この家に舞い戻って来たのだ。

そんな母性の暴力が、雅彦達3人に襲いかかる。
今、仮にこの手を亜美に伸ばそうとも、全てを優しく包み込まれてしまわれそうな、そんな圧倒的な母性だった。

特に健一にとって、それはたまらないことだった。
元々、亜美に対して微かに母性を要求していた健一は、今の亜美が醸し出すその雰囲気こそ、究極の理想そのものだった。

今すぐ自分が赤子に戻ったつもりで、あの豊かな乳房に顔を埋めたい、甘えたい、許されたい、そんな衝動で胸が張り裂けそうだった。
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