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VERTEX
第23章 敗北…



篠原さんが糸のような目を更に細めて笑ってくれる。


「俺は知ってるからなぁ…、あの泣き虫の涼二がここまで来れたのは理梨ちゃんが居たからだ。それは霧島も会長も知ってるから…。」


私と離れようとしない涼ちゃんにいつも苦笑いをしていた篠原さんだから私と涼ちゃんを無理に引き離そうとは絶対に言わない。


「2人とも…、大きくなったよな。」


篠原さんが懐かしそうに私と涼ちゃんの頭を撫でる。

自分はプロとしては通用しないと決めた篠原さんがまだ中学生だった涼ちゃんの練習に付きっ切りになってくれた。

篠原さんが居たから涼ちゃんがここまで来れたと言ってもいいくらいの人だ。

誰もが私と涼ちゃんを守ろうとしてくれる。


「そろそろ、行くぞ。」


篠原さんがパソコンの電源を切り、モニターからテレビ画面が消える。

VERTEXの放送はもう終わった。

後1時間で年が変わる。

私と涼ちゃんの新しい年が始まる。

涼ちゃんが私の頬にキスをする。


「誰に何を言われても気にするな。」


私の手を涼ちゃんが握り直す。

その手を離せば私は迷子になる。

私の道を常に一緒について歩いてくれる犬男は今夜はチャンピオンとして私をエスコートする。

裏方の通路を抜けてVERTEXの打ち上げ会場へと向かう。

通路の途中で会長と霧島さんが待っている。


「霧島さん…。」


私だけが声をかける。

涼ちゃんは俯いたままで泣きそうな顔をする。

泣き虫涼ちゃんは相変わらずだと感じる。


「やばいよな…、帰ったら…、また静香に土下座する羽目になっちまった。」


霧島さんがわざとおどけるように言う。

本当は静香さんが霧島さんを責めたりなんかしない事はわかってる。


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