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籠鳥 ~溺愛~
第10章

美冬は皮膚の薄い眉間に皺を寄せると、くるりと元来た道を戻り始めた。
この高校には正門のほかに裏門があった。
大通りから大分遠い門なので、教師にも生徒にもほとんど使われてはいない。
校庭を突っ切って裏門に回ると、そこには誰もいなかった。
ほっとして門をくぐりながら、美冬は高柳に申し訳なくて俯いてしまう。
(もしかしたら高柳さん一人で、心配してきてくれたのかも……ごめんなさい)
美冬は心の中で謝ると、普段使わない裏門からの道を確認するために顔を上げた。
「………」
どさり。
学生鞄が地面に落ちる。
美冬の黒目がちの大きな瞳が見開かれる。
「鏡哉、さん――」
美冬はそう呟くと、ばつの悪そうな顔をして俯いた。
その視線の先に、鏡哉のスラックスの足元が入る。
黒く艶やかに磨き上げられた靴先が近づく度、美冬の小さな胸が鼓動を早くする。
半袖のセーラー服から伸びた腕を鏡哉に掴まれそうになり、美冬はとっさに手を引いた。
「……話がある」
頭上から鏡哉の低い声が降ってくる。
「……私には、ありません」
美冬は自分でも驚くほど、硬い声でそう言い返す。
「無責任なんだな――」
まるで責めるようなその言葉に、美冬はとっさに顔をあげそうになるがぐっと堪える。
「私を誰だと思っている。日本で有数の企業のトップだ。一方的に辞めたいと言われても、君が働いていた期間に私に関して見聞きしたことを外に漏らさないとは限らないだろう?」
「………」
美冬は一瞬何を言われたのか分からず、戸惑った。
(な、に……私が、鏡哉さんの弱みなんかを、ライバル会社に売るとでも言うの――?)
あまりの言い分に、悔しくてギュッと拳を握る。
「私、そんな事――」
「口約束で済むと思うのか? 現に君が私と暮らしていた事実だけでも、私を今の座から失墜させるのに足るというのに」
美冬を遮ってそう言い渡した鏡哉に、美冬はとうとう面を上げてしまった。
今まで見たことのない鏡哉の侮蔑を含んだ視線とぶつかる。
ずきりと美冬の心が痛む。
「……どうしろと」
視線を逸らしてそう呟いた美冬に、鏡哉は近くに止めてあったベンツの助手席のドアを開いた。
「乗れ」

