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エリュシオンでささやいて
第15章 Approaching Voice

あたしは、車の外に出た。
須王の声が聞こえたけれど、言いたいことはわかっている。
だから上から被せるようにして、言った。
「ごめん、ちょっとだけ外の空気を吸わせて。ドアは開けておくから」
危険なのはわかっているけれど、どう考えても、棗くんの激情を鎮めるには、あたしが離れる方法しか思い浮かばなかった。
……情けないな、あたしだって同級生で仲間なのに。
友達とすらも心許して貰えず、ただこうして離れることしか出来ないとは。
ドアからは女帝も続いて降りてきた。
そしてあたしの手をとると、血が滲み出て紫色に変色もしている傷口を見て、痛ましそうに顔を歪める。
「棗、遠慮もへったくれなく、ばっくりといったわね~」
女帝らしい声のかけ方に、思わず笑いが込み上げる。
深刻にして貰わない方が、こちらも助かるし、きっとこれは女帝なりの気の使い方なんだろう。
「消毒薬はないけど、とりあえず変な菌感性予防に絆創膏貼っておこうか。これだったら二枚……いや、三枚必要か」
女帝のポケットから出て来た絆創膏。
普通に取りだしたけれど、無論あたしのポケットにはそんな女子力高いものなんか入っていない。せいぜいポケットティッシュか、糸くずだ。
「……柚は、棗がああなること知ってたの?」
「うん……。前に一度見たことがあって……。それ以来元気だったから大丈夫だと思って、結構棗くんに負担かけすぎちゃったから……」
女帝は三枚目の絆創膏を手早く貼り終えると、開いたドアの奥にいる棗くんを見つめた。
「てんかん……とも違うわよね。学生時代にてんかんの子を見たことがあるけれど、ちょっと雰囲気が違うし。……病院、連れて行った方がいいんじゃない? 薬あっても、あれ……相当やばそうな気がする」

