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エリュシオンでささやいて
第8章 Staying Voice

「本当は、この件について今はなにも言いたくなかったが、時間が経つにつれ、なにか嫌な予感を感じている。慣れきった危険の予感が、強まっている」
「……っ」
あたしも嫌な予感を感じている。
「今、幸せを感じればほど、これが夢ですぐ終わってしまうような、そんな儚さを感じている。恐らくお前を完全に手に入れるためには、組織と対峙してなんとかしねぇといけねぇ。……俺は、それをやるつもりだ」
「危ないことはっ」
「九年前、俺は逃げた。逃げたために九年もお前を苦しめた。だからもう逃げるわけにはいかねぇんだ。お前を苦しめたくねぇから」
須王の語調には、既に覚悟を決めたような強い響きがあった。
「俺のためにお前が巻き込まれるのも、お前自身が標的になっているのも、どっちもごめんだ。もし俺の過去に意味があるのだとしたら、組織で培った地下世界の力だろう」
須王は手のひらを見つめ、ぎゅっと握りしめた。
「俺、またこうして……お前と平和な東京を眺めてぇんだ。こうやって邪魔されることのない環境で、お前と愛し合いてぇんだよ」
……それはあたしも願う。
ずっとこれが続きますようにと。
それが続かないような不安を感じ取ればこそ、切迫感を胸に抱いて、永続の平和を乞い願う。
「俺、お前に普通な恋愛をさせてやれねぇかもしれねぇ。物騒な目に遭わせるかもしれねぇ。お前が見たことのねぇ、怖い顔をするかもしれねぇ。血の香りを漂わせるかもしれねぇ」
「………」
須王は苦しげな顔で言った。
「だけど――、嫌わねぇでくれねぇか。他の男のところに行かねぇでくれねぇか。黙ってこうやって、俺を抱きしめていてくれねぇか。……わがままだとはわかっているけど、それでも……」
「いいよ」
あたしは即答する。

