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サキュバスちゃんの純情《長編》
第11章 幸福な降伏

「逃げ切れそう?」
「善処する、としか言いようがなくて」
「ま、そうだよねぇ」
家が知られている以上、帰り道にも気をつけなければ。
でも、正直に「私はマゾではありません」と宣言してしまえば、荒木さんが私にそこまで執着することもないかな、とも思えてしまう。
サディストはマゾヒストを求める、んだよね? 私はマゾヒストではないんだもんなぁ。
……と、気楽に考えるのが、私の「隙」なのかもしれない。用心しなければ。
「翔吾ははとこがセフレになるのは反対?」
「絶対、反対。弟ならいいけど、雄兄はダメ。あかりが傷つくってわかっているのに、そんな男に彼女を委ねたくない」
「じゃあ、俺も反対。あかり、逃げ切って」
「……が、頑張る」
案外、湯川先生と翔吾くんはウマが合うのかもしれない。まだお互いに信頼はしていないだろうけど、私のことに関して言えば、考え方や価値観は似ている。
それがいいことなのか、悪いことなのか、まだ判断はできないけれど、幸せなことに変わりはない。
「あ、ビール飲んじゃった。望さん、もうビールない?」
「もうないかな。飲みたい……よな? 飲まないとやってらんないよな? ルームサービス頼むか?」
「いいね! ツマミも欲しいな。あ、メニューはこれか」
テーブルの上にあったメニューを見ながら、ビールやワインの名前を挙げていく翔吾くん。湯川先生は「まぁ、いいか」という顔をしてリクエストを聞いている。
私はノンアルコールカクテルがいいなぁ。あと、甘いものがあれば欲しいな。先生の分の羊羹、食べ損ねちゃったし。
とにかく、荒木さんには「マゾではありません」と伝えて、逃げよう。逃げ回ろう。追ってこなくなるまで。
それしか、ない。
フロントにルームサービスの注文を入れる湯川先生を見ながら、私は一つ、覚悟をする。
……この酒盛りは、夜まで続くかもしれない、と。

