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サキュバスちゃんの純情《長編》
第9章 記憶と記録

貴録は、そこで途絶えていた。原本に涙が落ちたのか、滲んで読めなくなっている。
心から……どうしたと言うのだろう。
求めていた? 尊敬していた? 愛していた、は違う気がするから、慕っていた、とか、だろうか。
想像するしかできないけれど、それに近い言葉が入るのだろう。
水森貴一が亡くなったのは、叡心先生が亡くなった日と同じ、だった。
知らなかった。
何の因果だろう。
私は毎年、できる限り、命日に叡心先生の墓参りをしていた。たぶん、水森貴一が亡くなった年も、そうだ。
もし、あのとき、水森貴一と鉢合わせでもしていたら、未来はまた変わったのかもしれない。
けれど、そうはならなかった。
抗いようのない運命、だったのだ。
……疲れた。
このまま眠ってしまいたい。
『生きて、幸せに』
叡心先生の言葉は、心からの願いだったのだろうか。
『生きて幸せになって欲しい』
水森貴一の言葉も、心からの願いだろう。
遺す者への、最期の願い。

