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サキュバスちゃんの純情《長編》
第8章 兄弟の提携

『あかりさんの好きにすればいいと思いますよ』
「……はい、そうします」
『そういえば、村上叡心の画集には目を通しましたか?』
「いえ、まだですが」
水森さんにもらった紙袋の中身は、軽井沢への荷造りで疲れてしまってまだ見ていないままだ。帰宅したら見ようと思っていた。
『二冊ともゆっくり目を通してください』
「はい、連休明けには」
軽井沢から帰ったら、見よう。ゆっくり、落ち着いて、先生との思い出に浸ろう。
『必要があれば、また連絡ください』
「はい。ありがとうございました」
『……あかりさん』
「はい?」
電話の向こうで、水森さんが何かを言い淀んでいる、そんな気配がする。けれど、一瞬の逡巡のあと、彼はその言葉を飲み込んだ。
『いえ、何でもありません。では、おやすみなさい』
「おやすみなさい」
通話はふつりと切れる。
水森さんが最後に言いたかったことは何なのか、私にはわからない。私は彼をよく知らない。知る必要もないと思っている。
ザワザワと揺れる木々を見たあとで、私はもう一度頭の中を整理しようとベッドに倒れ込んだ。
翔吾くんに叡心先生のことを話そう。
そうして、翔吾くんに、本気かどうか、もう一回聞こう。付き合いたいかどうか、聞こう。
でも、たぶん、セフレは必要だから、それを許してくれるなら、だけど。もちろん、そんなうまい話が、あるわけ、ないと、思う、けど……。
そして、そのまま、眠ってしまった。電気もつけたまま、スマートフォンも握りしめたまま。
あれだけ濁っていた気持ちが、少し晴れたのにすら、気づかないまま。

