この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
君がため(教師と教育実習生)《長編》
第8章 【回想】里見くんの失恋
小夜先生が息をのむのがわかった。
校門のあたりはまだまだ騒がしい。教室のほうも騒がしい。
国語準備室は、静かだ。
「……里見くん、ありがとう」
静かな部屋に、先生の冷静な声が落ちる。
俺は、その瞬間に、悟った。
あぁ、駄目だ。
俺は――フラれる。
「でも、ごめんなさい。私は里見くんとお付き合いはできません」
やっぱり。
顔を上げると、悲しげな表情で俺を見つめる小夜先生と目が合う。悲しいのは俺。泣きそうなのも、俺。
勝算があったわけじゃない。
でも、生徒じゃなくなったら、卒業したら、俺との未来を少しは考えてくれるかなと思った。甘い考えだった。
浮気をしている高村礼二にすら、勝てないのか、俺は。
無力だな。無様だな。本当に、泣きそうだ。
なのに、まだ、諦めきれない。食い下がる。少しでいいから、可能性が欲しい。
「彼氏がいるからですか?」
「それもありますけど、私は社会人なので、生徒や学生さんとはお付き合いできません」
「社会人になったら、付き合ってくれますか?」
俺は小夜先生を困らせる。
困ってよ。それくらい望んだって、罰は当たらないはずだ。
今だけは、俺のことだけ考えて。俺のことで、頭の中をいっぱいにして。
いつもの、俺のように。いつも小夜先生のことを考えている俺のように。

作品検索
しおりをはさむ
姉妹サイトリンク 開く


