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わけありっ、SS集!
第1章 緋狐(ひぎつね)の宝玉

どれくらいそうしていたか。ふいに耳元で声がした。
「くぅん……」
少年が、微かに目を開ける。隣には先ほどの緋狐がいた。横たわる少年の首に、鼻先を押し付けている。温かい感触が気持ちいい。
「まだいたの……?」
襲われかけた人間のそばを離れないなんて、変なやつだな、と思った。
緋狐は、くぅんくぅんと何度も鳴いて、少年のボロボロの服を引っ張った。どうやらどこかへ連れていこうとしているらしい。
「もう僕、動けないよ……」
このまま眠らせてほしかった。もしかしたら、そのまま目覚められないかもしれないけれど、それでもいいと思えた。
「くぅん……くぅん」
緋狐は、何度も鳴いて少年を眠りの淵から呼び戻そうとする。ちろちろと頬を舐められ、やがて軽く噛まれた。
さすがに痛みで反射的に身体を起こした。
いったいどうしたと言うのか。さっきまで、鳴き声一つあげなかったくせに。
岩の陰へと消えていく緋狐を追って、少年もとぼとぼと歩いた。今まで視角になっていて見えなかった、大きな岩のその向こう側を覗く。
「こ、これは……」

