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潮騒
第10章 出産 ー高波ー
「初めてやないから知っとるやろうけど、しばらくは悪露が出るからの、無理はあかんぞ」

酒屋の婆さんは、胎盤と臍の緒を産湯を棄てた後の盥に纏め、その辺にあった手拭いで手を拭きながら、勝二に裏の堆肥桶の中にでも棄ててこい、と指示をした。

鳥や魚の内臓にも似たそれを、勝二は素直に棄てに行く。

戻った勝二と小吉に、菊乃と赤ん坊を寝間に寝かしてやれと言い、菊乃は襁褓のように股に布を当て、勝二と小吉に両脇を抱えられて部屋に行く。
勝二も小吉も既婚者で子持ちでは有ったが、妻の出産に際し、此れ程働いてはいないだろう。

タツノには血を拭くのに使った布と盥を洗って乾かすよう指示をして、婆さんは帰って行った。

「勝兄、小吉っちゃん、ありがとう…ごめんやで…」

弱く微笑む菊乃に、

「乗り掛かった舟や。ここで途中で棄てて帰ったらタツノにも梅子にも縁切られるわ」

小吉が苦笑する。梅子は小吉の妻で、菊乃の一級上だが、友達ではある。

勝二も確かにな、と笑った。
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