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いじっぱりなシークレットムーン
第2章 Nostalgic Moon
彼はあれから、何人を相手にしてきたのだろう。
何人にあの甘い睦言を囁き、あの顔を見せたのだろう。
チサだけ? チサ以外にも?
あたしは自分の唇を指で触れた。
結城の電話がなければ、あたしと彼の唇は重なっていたのだろうか。
重なるだけで終わったのだろうか。
なんで許そうとしてしまったのだろう。
なんで彼は、キスをしようとしたのだろう。
……あんなに不機嫌そうだったくせに。
あれは、月夜が見せたひとときの揺らぎ。
お互い、ちょっとだけ昔を思い出しただけ。
大学生のあたしと中学生の彼が、何度もキスをしながら、交わったあの蜜事を。
ただの気の迷いか、きっと彼にからかわれただけだ。
大丈夫、明日はしっかりやれる。
明日は衣里に残業していて貰おう。それであたしのおごりでビール飲みに行くんだ。
大丈夫――。
彼は上司だ。あたしはあの軟派な社長相手にだって、ずっとやりすごしてこれたんだから。
――気持ちいい?
柔らかな切れ長の目。
熱の籠もった琥珀色の瞳。
――チサ。
あたしの名前は、チサじゃない……。
次第に睡眠薬が効いてきて、あたしは眠った。

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